日銀は11月の金融政策決定会合で、さらなる長期金利の上昇を容認する姿勢を打ち出しました。そして来年の春闘で一層の賃上げが見込まれることが確実になれば、次はマイナスにしている短期金利の引上げに向かうと予想されています。
これまで日銀は賃金上昇を伴う安定的な物価上昇率が2%を超えるまで金融緩和を続ける方針でした。しかし、足元の物価上昇率は3%を超えており、これに賃金上昇が伴えば、長年続けてきた異次元の金融緩和を終了させる見込みです。
日本経済は90年代の不動産バブルの崩壊以後、物価は上がらず、インフレはすっかり過去の遺物になっていました。しかし円安の進行やウクライナでの戦争を機に、およそ30年ぶりにインフレが戻って来ました。
この先は物価上昇に加え、金利も上がり、それに伴い賃金も上がるインフレ時代を迎えます。すでに最低賃金は毎年、上がり続けており、社会保険の適用拡大も賃金コストを上昇させます。
さらに政府は個人に対するリスキリング支援策にも乗り出し、労働移動、つまり転職によって賃金を上昇させる方針と言われています。このため人手不足を背景にした転職や中途採用の広がりも賃金を上昇させる方向に働きます。
これからの経営では、上昇し続ける資材、資金、労働コストを価格転嫁できるか否かが生き残りのカギになります。そのためには生産性の向上や新規事業の開発、新規顧客の開拓、イノベーションによる新しい需要の掘り起こしが求められます。
これまでのデフレ時代は物価が上がらなかったため、賃金を上げなくてもさほど大きな問題にはなりませんでした。しかし、これからは賃金を上げないと採用が難しくなり、退職者が増加します。
デフレ時代は物価、金利、賃金が低い水準で安定していました。風が吹かない凪(なぎ)の海のようなもので、企業という船のスピードに差はありませんでした。しかしインフレという風が吹き始めると船のスピードの違いが顕著になりそうです。