人事コンサルタントのお仕事日誌

人事労務管理のコラムとFPエッセイ

iDeCoとNISAの使い分け

来年、2024年から新しい NISA少額投資非課税制度)が改正されることになり、大きな注目を集めている。NISAと同じような制度として iDeCo(個人型確定拠出年金)もある。

2つとも老若男女、職業を問わず利用できる制度であり、自分で資金運用する点でも似通っている。しかし制度の趣旨は大きく違うため、それぞれの違いを踏まえて利用することが望ましい。そこでiDeCoとNISAの違いを取り上げる。

 

iDeCoとNISAの法律上の位置づけ

iDeCo確定拠出年金法 という法律に基づく制度であり、第1条の目的条文には「公的年金の給付と相まって、生活の安定と福祉の向上に寄与する」と書かれている。この「公的年金の給付と相まって」という箇所がポイントで、iDeCo公的年金に個人が上乗せを図る私的な年金という位置づけになる。

これに対しNISAは 租税特別措置法 に基づく税制上の特例であり、その目的は ①企業の成長資金の供給拡大を促しつつ、②家計の安定的な資産形成を推し進めることを狙いにしている。

つまりiDeCoは個人による年金のためという限定的な仕組みであるのに対し、NISAは年金も含めた幅広い意味での個人の資産形成のための制度になる。

iDeCoとNISAの違い

iDeCoとNISAは共に、個人が自分で選んだ投資商品を金融市場で運用する点や、運用益などが非課税になる点で共通している。

大きな違いはiDeCoは一度、拠出した資金は60歳になるまでは引き出せない点にある。公的年金と同じく、支払った国民年金や天引きされた厚生年金の保険料は原則65歳になるまで年金として受け取れないのと同じだ。

この点はデメリットと言える反面、強制的に年金資金が準備できるという点ではメリットとも言える。いざという時も手をつけられないことが、将来の安心につながる。

iDeCoに拠出した資金は長期間動かせないため、余裕をもって掛け金を設定する必要がある。なお掛金の変更は1年に1回に限り、可能になっている。

一方、NISAは株式や債券の売買や配当にかかる税金が非課税になる仕組みであることから、売買益(キャピタルゲイン)や配当(インカムゲイン)がない限り税制上のメリットはない。極端な例を挙げると、NISAで買った投資商品を売却した時に損失が生じ、運用期間中に配当もなければ、NISAによるメリットはない。

これに対しiDeCoは掛金が所得控除扱いになるため、投資商品の運用成績に関わらず、確定申告や年末調整で所得税や住民税が軽減されるメリットがある。所得があって、iDeCoで掛金を払い続けている限り、一定額の減税のメリットは享受できる。

ただしiDeCoは60歳以降に受け取る際、一時金で受け取ると退職所得となり、会社で受け取る退職金と同じ計算式により課税される。また年金で受け取る場合は、公的年金と同じ雑所得になり、公的年金と合算されて課税される。だがiDeCoの資金を受け取る際は所得が減っている場合が多いため、現役時代ほどの税負担はないと思われる。

つまりiDeCoは掛金を払う段階で税金の負担が減り、受け取る段階で課税されるため、課税が繰り延べされる効果があり、資金を効率的に利用できる。一方、NISAは課税された残りの資金を運用に回すため、資金効率の点では不利になる。

 

iDeCoとNISAの使い分けの基本

iDeCoは転職によって会社が変わっても継続でき、会社員でも自営業でも利用できることから、将来、支給額の減少が見込まれる公的年金の不足を補うための備えとしてNISAよりも優先するのが望ましい。

iDeCoへ掛け金を拠出した上で、なお余裕資金があればNISAを使って中長期的な資金運用・資産防衛を図るのが基本になる。NISAを使って老後の年金資金を準備することもできるが、iDeCoのような所得控除が受けられないため、税制上の恩恵はiDeCoに軍配が上がる。

またNISAでは人間の誘惑や恐怖という感情に打ち勝つ必要がある。NISAで利益が出ていると、「今回だけ」とか「自分へのご褒美」などと、あれこれ口実をつけて売却してしまいがちだ。あるいは、今売らないとこの先値下がりするかもしれないという不安にも耐えなければならない。私はNISAの最大のデメリットは、人間は感情に左右されてしまい、合理的な意思決定ができないという点にあると感じている。

 

将来像を見積もってみよう

iDeCo公的年金の上乗せ制度であるため、公的年金の被保険者の種別ごとに毎月の掛け金の上限が設定されている。公的年金はすべての国民に共通する国民年金と、会社員が加入する厚生年金、さらに企業により独自に用意される企業年金という3階建ての構造になっている。

iDeCoへの拠出金の上限額が最も大きいのは、公的年金の支給額が最も少ない自営業者などの国民年金の第1号被保険者で、月額68,000円になっている。被保険者数が多い企業年金がなく厚生年金だけという会社員の第2号被保険者は月額、23,000円となっている。

仮にiDeCoで月額2万円を拠出し30年間運用すると、元金は2万円×12カ月×30年=720万円になる。この間、長期投資の標準的な運用利回りとされる年3%~4%で複利運用すれば、総額は約1160万円~1380万円程度になる。これを20年の有期年金として受け取るようにすれば、1年で約58万円〜69万円程度と見込まれる。

現時点の厚生年金の平均的な受給額は月15万円、年間180万で、所得代替率(65歳時点での年金額が現役世代の手取り額の何%に当たるか)は約60%とされている。政府によれば、現在の経済成長と労働参加率が続けば、約20年後に所得代替率は50%に低下すると見込まれている(この見通しは甘いという意見もある)

減額が見込まれる公的年金に加えて、自分で準備する年金がこれで十分かどうかを判断し、なお不足や不安があると見込まれるなら、別途、NISAを使って将来に備えるのも一策だろう。

NISAは老後資金に限らず、幅広い資金需要に対応できるため、大きなライフイベントや人生の節目に備えて利用してもよいし、iDeCoによる資金運用が終了する60歳以降、資産を運用しながら預貯金を取り崩すことで、資産の寿命を延ばすという利用方法もある。さらに余剰資金を使って積極的かつ強気の資産運用を図り、資産拡大を目指すという道もある。

株式による運用は一気、短期、集中するほどリスク(価格の変動幅)は大きくなる。手持ちの資金を一気に使う/特定の個別銘柄の株を買う/レバレッジなどを使った投資商品で短期間で大きく儲けようとする、これらはいずれも分が悪い。

逆に長期間に渡り、投資先が分散されている投資信託ETF(上場投資信託)などを、毎月一定額を購入する積立投資などにより、時間や金額、投資対象を分散することでリスクが下がり、安定的な資産の形成に繋がる。

資産運用の基本は、より長い期間、マーケットにおカネを置いて、複利で運用を続けることだ。