人事コンサルタントのお仕事日誌

人事労務管理のコラムとFPエッセイ

中華系経営者とのつき合い方

 

熊本では、台湾の大手半導体メーカーTSMCの操業をきっかけに、中華系経営者と関わる日本人も増えている。中華系の経営者と渡り合っていくには、彼らがビジネスをどのように捉え、どのように事業を運営しているのかを知っておくのが賢明だ。

複数の米国人の教授たちが中国の民間企業のリーダーたちに直接インタビューし、彼らの経営スタイルの特徴を明らかにしている。この研究成果は「チャイナ・ウェイ」という本にまとめられているので、そこから中国人経営者の行動特性を見てみよう。

中国企業を取り巻く特殊な事情

中国の民間企業の創業者たちは独特の思考や行動パターンを持ち、そこから7つの特徴が読み取れる。その一つが「自力での進路開拓志向」の強さだ。

中国では1995年に企業の民営化が始まり、多くの民間企業が誕生した。共産党による経済統制下からのスタートという特殊な事情により、中国で通用するような経営の教科書や手本や見本、前例などがなく、参考になるような先達もいなかった。

欧米企業の知見は中国では使えず、創業間もない経営者たちは自ら考え、試行錯誤を繰り返し、一からビジネスモデルを作り上げながら、経営ノウハウを会得するしか術がなかった。

欧米企業の経営手法が役に立たなかったのは中国の事情による。中国では法制度やルールが未整備であり、ビジネスに敵対するイデオロギーが蔓延していた。また中央や地方の政治体制も不安定で、権力者や実力者が頻繁に左遷され交代した。日本企業が比較的容易に欧米企業の知見を吸収できたのとは大きく異なる。

「自力での進路開拓」では多くの実験や試行錯誤が行われ、その過程で多くの企業が姿を消した。中には政治権力争いに巻き込まれ投獄された者もいた。

中国の経営者たちは、生き残るには実践という経験から学ぶ姿勢が重要であり、学ぶことを疎かにしない姿勢を色濃く身に付けていった。

 

ビックボス・モデルの登場

中国企業は試行錯誤しながら学ぶため、数多く試す方が有利になる。そのため経営トップが素早く戦略を立て、実行へ移し修正するという特徴を備えるようになる。マネジメントサイクルである「PDCA」(PLAN→DO→CHECK→ACTION)が素早く回り、経営トップが絶対の権力者という「ビッグボス・モデル」が広まった。

ビッグボスは会社の戦略だけでなく、企業文化、組織風土の醸成にも深く関わる。欧米企業のトップが事業戦略の立案・実践に特化しているのに比べると違いが際立っている。

ビッグボスの影響力の強さは、日本の中小企業による家族的経営のような家父長主義をもたらした。トップは部下とその家族のことを気遣いつつも、従業員に対して厳格なコントロールを行い、絶対的な服従を求める。

従業員の側も組織的な影響を受けやすい体質が色濃く、ビッグボスへの高い忠誠心を持ち合わせている。こうした家父長主義的な経営のため、中国企業の人事管理は洗練されたレベルには程遠いと言える。

 

株主価値よりも成長を重視

その他に欧米企業との違いとして挙げられるのが企業価値の向上、つまり株主に対する意識の違いだ。

欧米企業が株主にもたらす利益を最も重視するのに対し、中国企業は株主利益よりも会社の成長を重視する。創業経営者の大半が自社の大株主であるにも関わらず、収益よりも規模の拡大を目指す。この強い姿勢がデフレを輸出しているとして批判されることにも繋がる。

中国人経営者が成長を重視するのは、自社製品やサービスを普及させ、物質的に良質な世の中を作り、雇用を拡大させることで地元・地域社会に貢献するのが企業の公的な責任であるという意識に根ざしている。

こうした特徴から中国企業の顕著な行動特性が形成されている。それは、①いち早くチャンスに眼をつけて掴み取ろうとする姿勢と、②ムダのない組織を構築し、成長を目指す志向だ。

「チャイナ・ウェイ」の著者たちは、日本や欧米企業が参考にできる点は企業組織の体制のあり方と、事業運営の方法であると指摘する。組織にムダがなく、過剰なチェックや規制を減らすことで、変化に対して迅速に適応する能力の高さを獲得できる。

中国企業の懸念材料は創業経営者たちの引退が間もなく始まろうとしていること、そして従業員の世代交代によるビックボスへの忠誠心の希薄化だ。

さらに中国共産党が再び民間企業の活動に規制の網をかけ、時計の針を逆に戻そうとしている点も懸念される。共産党を凌ぐ影響力を持つまでに巨大化した企業は、共産党が容認できる一線を越えつつある。

日本人と日本企業にとって何かと物議を醸す厄介な隣人との付き合いはこれからも続きそうだ。