人事コンサルタントのお仕事日誌

人事労務管理のコラムとFPエッセイ

おカネとの上手なつき合い方

 

人付き合いと同じくらい難しいのがおカネとのつき合い方だ。ベストセラー「サイコロジー・オブ・マネー」(Psycology of Money)の著者、モーガン・ハウセル(Morgan Hausel)は、お金と上手くつき合うには頭の良さよりも、行動が大切だと説く。

 


モーガン・ハウセル

 

その理由は、経済的な成功は運に左右される部分が大きく、物理や数学といったハードサイエンスでは得られず、どう振る舞うかというソフトスキルの問題であることが多いためだ。

本書では人間の欠点、偏見、悪しき行動の原因などを深く掘り下げている。「お金」を仕事や人生、経営に置き換えても通用するだろう。投資をする人もしない人にも通じる教訓をいくつかご紹介しよう。

 

教訓1 上手く行っている時ほど慎重になるべし

人生は個人の努力を超えた大きな力によって左右される。運とリスクが大きな影響をもたらす。経済的な成功や失敗も見かけほど良くもなければ悪くもない。だから偉大な個人の成功例や失敗例から、学ぶべき特性や避けるべき特徴を見極めるのは難しい。

物事が順調に行っていても、それは自分の実力よりも運によるおかげだ。逆に失敗しても自分の判断ミスではない。失敗しても自信を失わない事が大切だ。

 

教訓2 上手く行かないのが当たり前

ビジネスや投資の大半は統計的に例外的な出来事であるテールの力で成果が決まる。ごく少数の滅多に起きないような出来事が結果の大半を左右する。だから5割の確率で判断を間違っても、トータルでは大きく勝てることがある。

多くの人はこのテールの力を理解していないから、失敗に対して過剰に反応する。物事は上手く行かないのが当たり前で、失敗するのが当然だ。名のしれた成功者も同じで、完全無欠な人間などはいない。


教訓3 代償を受け入れる

投資における代償(リスク)とは、ボラティリティ(価格の変動)、恐怖、疑念、不確実性、後悔などに耐える事だ。お金の神様はこうした代償を払わずに、利益だけを得ようとする者を好まない。

仕事や人生でも目先の安全パイばかりを引いて、短期的な最適解を選び続ける事が長期的な成功につながるとは限らない。リスクを引き受けてこそ得られる感情を体験したり、これまで出会えなかった人との繋がりが生まれ世界観が広がる。だから代償を好きになる心づもりが大切だ。


教訓4 誤りを大切にする

不確実性、無作為性、偶然性などの未知の存在を常に受け入れる。お金にまつわる事は、これらの未知な出来事に支配されており、将来を予測するのは不可能だ。

投資では長期間、金融市場に留まり運用を続けることで複利効果の恩恵を受けることができる。だから未知な存在を認めることにより、失敗しても、再挑戦できる余地を残すことができる。またどんな事態に見舞われても耐えることができる。

あらゆる計画は計画通りに進まないことを想定して計画を立てるようにしよう。

 

サイコロジー・オブ・マネー



教訓5 人は変わるという現実を受け入れる

これまでに投資したり費やした資金は戻って来ない。こうしたサンクコスト(埋没費用)に拘束されずに、将来の判断を行わなければならない。サンクコストは時に未来の自分を過去の自分の囚人にしてしまう。若い時に打ち込んで得たキャリアや経験、資格にこだわり続けようとしない。

人は往々にして、過去の自分の変化は実感しているものの、将来の自分はあまり変わらないと思い込む。変わり続けた結果、今の自分があり、この収まりのよい自分はこのまま変わらないだろうという「歴史の終わりの錯覚」に陥る。人は自分の将来を上手く想像できない。

過去の自分という囚人にならないための方法としては、人は変わり続けるという現実を受け入れ、変化に対して柔軟に対応することだ。


教訓6 ストーリーの力に引き込まれない

経済において最強の力を持つのは数字よりもストーリー(物語)だ。私たちはそうあって欲しいと望む物語を真実と思い込む。そのため魅力的なフィクションによって怪しげな投資話に乗ってしまったり、あり得ないような判断をしてしまう。

自分が望んでいる真実と客観的な事実を区別することを心がけよう。魅力的な物語は私たちの仕事や人生、おカネの目標を変えてしまう。私たちは限られた情報や知識に基づいて、自分の都合のよい解釈で世の中を理解しようとする。

そして結果を自分でコントロールできるというストーリーにも捉われる。おカネや人生を自分でコントロールできるという幻想は、不確実な現実よりも説得力がある。

人は何でも自分に都合の良く物事を解釈し将来を予測する。自分の観ている世の中は、あくまで自分が観たい世の中であることを忘れない。


最後の教訓 おカネを得て時間を自由に使う

著者が考える資産運用での最高の配当とは、自分の時間を自由にコントロール出来る事だ。好きな時間に、好きな事を、好きな人と、好きなだけできる。おカネに支配されることが減り、人生の選択肢が増える。

著者はこの配当を最優先にしているため、ことさら資産をさらに拡大させる道を選ばなかった。

欲しい物の大半をまかなるだけの経済力を手に入れたなら、①経済的な欲望というゴールを動かさないようにする、②他人との豊かさを競うゲームには参加しない、③金銭面で満腹状態になのに、さらに食べようとしない、④大きく儲かるかもしれないからといって、危険を冒すほどの価値のないものには手を出さないようにする。


資本主義は欲望のままに生きる獰猛な生き物のような存在だ。しっかり檻に入れておかないと、自分が食べられてしまう恐れがある。