中古自動車の買取販売のビックモーターが揺れています。保険金の不正請求に加え、環境整備 と称する活動で店舗前の樹木に除草剤を使って枯らしたことも問題になっています。
この「環境整備」を指導していたのが株式会社武蔵野の代表、小山昇氏と言われていますが、環境整備の生みの親は著名な経営コンサルタント、一倉定（いちくら・さだむ）氏です。
一倉定 氏
一倉氏によれば、環境整備は経営者が最も大切にすべき活動であり、その真髄は不要なモノを捨てることにあります。今風に言えば「断捨離」です。現在のような情報化社会ではモノに情報も含まれるでしょう。
不要なモノを捨てることで在庫が減り、作業効率が上がり、生産性が向上するだけでなく、本当に大切なものに気づくようになると言うのです。多くの経営者は不要なモノを捨てられないから、今、本当に何をなすべきかが見えず、その結果、経営判断を見誤り、業績が低迷するというわけです。
同じような話はアメリカのビジネススクールの教授、クレイトン・クリステンセン（Clayton M. Christensen）も唱えています。クリステンセン教授は往々にして成功した企業は新興企業との競争に敗れるという「イノベーションのジレンマ」を明らかにしています。
クレイトン・クリステンセン
成功した会社はその成功をもたらした自社の技術や顧客、販路などの強みを捨てるのは容易ではありません。そのため、かつての強みが色あせても、それを前提にした「持続的なイノベーション」に終始します。
そうこうしているうちに、失うものが何もなく、過去のしがらみも一切ない新興企業による「破壊的なイノベーション」によって競争に敗れてしまうというわけです。
能の創始者、世阿弥の名言に「初心忘れるべからず」があります。これは大成してもそれまでに得た自分の技や評判、社会的地位などは投げ打って、捨て身になることにより初心に還れ、という教えと解することができます。
人間も経営も過去の成功体験にこだわるがゆえに、「盛者必衰の理」から逃れられなくなるのでしょう。
